Sense of Wonder

個人的に読んで見て聞いて触って味わったモノについて書き留めているブログです。

多様性の科学

 人類の祖先はほかの種より大きな、より密につながり合った集団で生活していた。その違いが劇的な繁栄へとつながった。なぜか?
 密な社会的集団があれば、その中で学習が進む。たとえ一人ひとりは食物を探したり道具を作ったりといった初歩的な知識しかなくても、密な集団に属していれば仲間から学べる。すでに頭のいい者でさえ、まわりから学ぶことは多い。1人なら一生かけてやっと学べるような知恵を集団から得られる。
 すると自然淘汰の原理によって、学習能力の高い者(たとえば他者の行動を観察する力があって、その相手から知恵やアイデアを得るのがうまい者)が生き残るようになる。一方、密な集団を構成しておらず、その中で学ぶこともなかったネアンデルタール人にとって、こうした学習能力は重要ではなかった。
(途中略)
 自然淘汰で学習能力の高い者が生き残るようになると、今度は進化の軌道が変わり始める。前の世代からさまざまな知恵を学んだあと、自分たちでも新たな知恵を共有し、それを後世に伝えていく。すると知恵が積み重なっていく。脳の小ささゆえに、一人ひとりの知能はネアンデルタール人に劣っていたとしても、集団の中で知恵やアイデアの蓄積はどんどん進み、やがて融合のイノベーションが起こる。

多様性の科学 著者:マシュー・サイド

わたくし的に特に面白かったのは、他の競合する類人猿たちの中で、いかにホモ・サピエンスが勝ち残ってこられたかというお話し。


「サピエンス全史」の中でユヴァル・ノア・ハラリは、人類が他の生物と違い、圧倒的な文明を築けたのは「虚構」の力だと言った。「多様性の科学」では、人類の進化には多様性が非常に重症なファクターであったという。人類が他の生物と違ったのは集合知を活かせるように進化してきたからであると。

アメリカは、世界から移民を受け入れることによって高齢化を回避しつつ、多様性を加速し様々なイノベーションを起こしてきた。多様性があるからこそ、いろいろな考えを取り入れつつ集合知を使って世界を動かしてきたのだと思っていた。それがアメリカの強みだと。


ところが今は、たった一人の大統領の頭の中だけで世界を解釈して動かそうとしている。
集合知は科学や文明の発展には多様性が大切だと理解していても、個々人としては、そんな将来の発展なんかより現在のほうが大事と判断したんだね。
トランプ的な世界観で、世界はますます分断され、お互いの考えなど認めない方向に進んでいる。

所詮生物としての人間は、眼の前の餌しか見ていないのかもしれない。でも多様性も生き残るために遺伝子に組み込まれた戦略の1つだとしたら、結局はグローバルな社会の方へ揺り戻されるんじゃないかな。50年後の世界はどうなっているんだろうね。

本書は、人類的視点に立ってとか、文明についてとかの記述はそれほどないんだけど、イノベーションを起こすために、多様性がいかに重要であるかを様々な視点から論じている。ひとつひとつの例えも興味深く、多様性が大切なのはわかっていながらも、具体的に再確認させてくれる。いろいろな考え、文化、人種、それぞれの知見が混ざり合ってこそ、新しい世界が開けていくってことですね。

サピエンス全史

効力を持つような物語を語るのは楽ではない。難しいのは、物語を語ること自体ではなく、あらゆる人を納得させ、誰からも信じてもらうことだ。歴史の大半は、どうやって厖大な数の人を納得させ、神、あるいは国民、あるいは有限責任会社にまつわる特定の物語を彼らに信じてもらうかという問題を軸に展開してきた。とはいえ、この試みが成功すると、サピエンスは途方もない力を得る。なぜなら、そのおかげで無数の見知らぬ人どうしが力を合わせ、共通の目的のために精を出すことが可能になるからだ。想像してみてほしい。もし私たちが、川や木やライオンのように、本当に存在するものについてしか話せなかったとしたら、国家や教会、法制度を創立するのは、どれほど難しかったことか。

サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福 著者:ユヴァル・ノア・ハラリ

DNAによって支配された生命は、そのプログラムの中でしか進化できない。何千万年もの時間をかけて、環境に適応するように変化していった生物もそれだけでは、文明を築く事はできなかったかもしれない。
では、ホモサピエンスが地球の主となるほどの文明を築けたのは、他の生物と何が違っていたのか。

それは、「虚構」の力だという。人類の想像力が生み出したもの。神や国民、貨幣など目には見えないものを集団で信じることが出来る、その虚構が大勢の人数が集まって協力するために必要だったのだ。
宗教、国家、幸福、人類の成り立ちを科学的に描いてみせてくれます。

遅ればせながら、Kindle で文庫版上下合本が安くなっていたので、ポチりました。流石に世界的なベストセラー、端から端まで面白い。人類の歴史というよりも、なぜ人類文明が発展してきたのかが、主題です。今更ですが、読んで損はありません。

侍タイムスリッパー

巷で話題の侍タイムスリッパーを見てきました。非常に面白かった。侍がタイムスリップして現代にやってくるっていう、何度も繰り返されたようなあるある設定なんだけど、脚本次第でこんな映画も作れるんだなと、感心しきり。

主演の山口馬木也さんも名前を知らない役者さんだったけど、とってもよかった。どこまで本当の方言に近いのかはわからないが、会津訛りの喋り方も人物像を際立たせていたと思う。自主制作映画だからこそ、こういう役者さんもいるんだと、気付かされるよね。人気俳優を使って脚本はそこそこ、とりあえず宣伝費はたくさん使ってコスパさいこーな映画ばっかりじゃダメだよ。

基本コメディ映画なので、侍が訳のわからない現代社会で生きていこうと奮闘するお話を、くすくす笑わせながら描いています。その中でいろいろな葛藤や憤り、平和な世の中であることの幸せなど様々な感情が入り乱れつつ、真剣勝負のクライマックスへと繋がっていきます。もう、最後の手に汗握る決闘シーンの場面の切り返しは、見事だった。

★★★★★ お勧め!

「カメラを止めるな!」と比較されることが多いみたいだけど、時代劇への愛情がハンパないこの映画は、自分で脚本書いて、主演にこだわり低予算ながらも映画への情熱を感じた「ロッキー」を思い出しました。

ラストマイル

「アンナチュラル」は、面白くて何回も見ている。この脚本書いた人ホントにすごいなと思って、それで知ったのが野木亜紀子さんでした。で、ちょっと調べたら昔見て面白いなと思っていたドラマの脚本いっぱい書いてるじゃないですか。「空飛ぶ広報室」「重版出来!」もちろん「逃げるは恥だが役に立つ」も。オリジナル脚本の「MIU404」もとても面白かった。

そんなわけで「ラストマイル」見ないわけにはいかない。「アンナチュラル」と「MIU404」の世界とひとつづきになったシェアード・ユニバース作品なのだ。
シェアード・ユニバースっていうのは、簡単にいうと、桃太郎と金太郎は別々のお話しだったのに、実はお友達でしたというようなことだ。どっかのCMのようだが、舟渡エレナ風に例えてみた。わかりにくかったらゴメン。

内容は、
消費者(私やあなた、あるいは子供二人を抱えたシングルマザー)がネットでポチッと買い物をする

外資系大手通販サイト:業務至上主義の五十嵐道元 日本支社統括本部長

巨大配送センター:主人公の舟渡エレナ センター長、梨本孔 チーフマネージャー

大手運送会社:板挟みの八木竜平 関東局局長

委託配送ドライバー:地道に働く佐野昭、佐野亘 親子

消費者
というシステムの中で無差別の爆弾テロ事件が起きて、事件解決に向けて警察が動き出す。でも、そこはそれ、悪い犯人を正義の味方がぶっ飛ばす方向には進まない。犯人は誰で、どうやって爆弾を仕掛けたのかなどミステリー要素は十分あるけれど、この物流業界のシステム自体がメインストーリーになっていく。エンターテインメントと社会の問題点を同時に描く脚本はさすが。
主人公の満島ひかりさんの頭をフル回転させてる感じも、岡田将生さんの少し落ち着いた感じもとてもよかった。

そんでもって、その捜査過程の中に「MIU404」や「アンナチュラル」の面々が絡んでいくのだけれど、あくまでも組織的捜査の歯車のひとつという感じ。事件解決に直結する活躍をするわけではない。でもそれがよかった。これらのドラマを見たことない人でも、問題なく見られたと思う。ただ、ドラマを見ていた人は、あの子がこんなところでとか、こっちで頑張ってたんだとか、細かいところで楽しめる。それになんか、いろんなところで活躍していた登場人物たちが番組が終わった後も生活が続いていて時が流れ、同じ世界で生きていたんだなって感じがして、それが映画の中で世界に広がりを持たせてくれたような気がする。不思議な感じのリアリティ。これが重たいテーマに現実味を持たせる隠し味になってるんじゃないかな。

ちょっとだけ残念だったのは、犯人の描写が少なすぎたこと。ここまでの無差別テロを起こすには動機が弱い気がして、もう少し掘り下げて欲しかったかな。

★★★★★ お勧めです。


映画館で入場の時にシールをもらった。ラッキー!。

イノベーションはなぜ途絶えたか ──科学立国日本の危機

 熾烈な国際競争のさなかにあるハイテク企業の場合は、ブレークスルーを成し遂げない限り生き残っていけない。一方、東電やJR西日本は事実上の寡占ないし独占企業であり、生き残るためにイノベーションの必要性はほとんどない。

 こうした状況では、職員の評価の仕方は減点法にならざるを得ない。減点法の世界におけるリスク・マネジメントは、想定外のことが起きたときに「いかに被害を最小限にとどめるか」ではなく、「いかにリスクに近寄らないか」という発想に陥ってしまいがちである。そうした空気は、必然的に組織から創造力や想像力を奪っていく。

 事故によって、イノベーションを要しない独占企業における技術経営力の不在が一気に露呈された。事故が日本社会ののど元に突きつけたものは、「ブレークスルーしない限り、もはや日本の産業システムは世界に通用しない」という警告ではなかっただろうか。(中略)

 すなわち、科学の専門家が組織の意思決定システムにいないことに加え、分野を横断して縦横無尽に行き来する水平関係のネットワークの欠如が、東電の原発事故やJR福知山線事故のような不幸を招いた構造的要因となったと言えるだろう。

イノベーションはなぜ途絶えたか ──科学立国日本の危機 著者:山口栄一

科学技術が衰退し、イノベーションを生み出せなくなった、沈みゆく日本をどうしたら救えるか。企業の基礎研究軽視、政策的失敗等を具体的に指摘しながら、新たなイノベーションを生み出すための方法を示します。

JR福知山線のカーブでの脱線事故や東電の原発事故のくだりは特に具体的で、印象に残りました。
いかに経営陣に科学リテラシーが欠如していて、政治的判断、経済的判断のみに偏り社会的な大事故を引き起こしてしまうのか。それはまた、企業側だけではなく、社会全体でもバランスを失っている状態であり、イノベーションを生み出せなくなっていることにも繋がっていると指摘しています。

科学や技術で世界と戦ってきたはずの日本なのに、ベンチャー企業で始まった電気メーカーや自動車メーカーが巨大企業へと変わっていった過程で、その根幹である研究部門をないがしろにし、世の中を変えていこうという意識を失ってしまったことが、残念でなりません。