Sense of Wonder

個人的に読んで見て聞いて触って味わったモノについて書き留めているブログです。

イノベーションはなぜ途絶えたか ──科学立国日本の危機

 熾烈な国際競争のさなかにあるハイテク企業の場合は、ブレークスルーを成し遂げない限り生き残っていけない。一方、東電やJR西日本は事実上の寡占ないし独占企業であり、生き残るためにイノベーションの必要性はほとんどない。

 こうした状況では、職員の評価の仕方は減点法にならざるを得ない。減点法の世界におけるリスク・マネジメントは、想定外のことが起きたときに「いかに被害を最小限にとどめるか」ではなく、「いかにリスクに近寄らないか」という発想に陥ってしまいがちである。そうした空気は、必然的に組織から創造力や想像力を奪っていく。

 事故によって、イノベーションを要しない独占企業における技術経営力の不在が一気に露呈された。事故が日本社会ののど元に突きつけたものは、「ブレークスルーしない限り、もはや日本の産業システムは世界に通用しない」という警告ではなかっただろうか。(中略)

 すなわち、科学の専門家が組織の意思決定システムにいないことに加え、分野を横断して縦横無尽に行き来する水平関係のネットワークの欠如が、東電の原発事故やJR福知山線事故のような不幸を招いた構造的要因となったと言えるだろう。

イノベーションはなぜ途絶えたか ──科学立国日本の危機 著者:山口栄一

科学技術が衰退し、イノベーションを生み出せなくなった、沈みゆく日本をどうしたら救えるか。企業の基礎研究軽視、政策的失敗等を具体的に指摘しながら、新たなイノベーションを生み出すための方法を示します。

JR福知山線のカーブでの脱線事故や東電の原発事故のくだりは特に具体的で、印象に残りました。
いかに経営陣に科学リテラシーが欠如していて、政治的判断、経済的判断のみに偏り社会的な大事故を引き起こしてしまうのか。それはまた、企業側だけではなく、社会全体でもバランスを失っている状態であり、イノベーションを生み出せなくなっていることにも繋がっていると指摘しています。

科学や技術で世界と戦ってきたはずの日本なのに、ベンチャー企業で始まった電気メーカーや自動車メーカーが巨大企業へと変わっていった過程で、その根幹である研究部門をないがしろにし、世の中を変えていこうという意識を失ってしまったことが、残念でなりません。